『あかりをください』紺野キタ

「わたしたち きっと すてきな家族になろうね」
「いっそ尚ちゃんがハゲでお腹も出ているオジサンで
 わたしが小学生の子供のままだったらよかった
 そしたら家族をまもるのももうすこしたやすかったかもしれない」

主人公、小椋鳩子は今は亡き母親の再婚相手の尚典と幼い妹の多実の3人で暮らしている。
高校生に成長した鳩子とまだ若い尚典、鳩子の実の父、尚典の母、デリカシーのない教師、尚典の元同僚の女……様々な小さな事が幸せな日常を揺るがそうとし、鳩子は自分の位置を見失いそうになる……。
こう書くと、結構ありがちな設定のように見えるが、他の作品と違うところがある。
それは……たいして何も起こらないことである。
一緒に暮らさないかという実父の誘いにも第一話で断りをいれるし、鳩子のほのかな恋心にも尚典は最後まで気付かない。元同僚も鳩子に「あの人嫌いじゃないよ。うーん、下心隠さないとこ?」と語られる始末。多実はずっと無邪気な幼児に過ぎないし。
 
じゃあ、この作品は82頁も使って、一体何をやっているかというと、家族の触れあいと、悩む鳩子と心配する親友の唯……わかりやすい派手なドラマも悪役もなく、暖かく幸せな家族とそれがいつか失われるだろうという漠然とした不安……それだけなのである。
しかし、だからこそ、日常のちょっとしたことで一喜一憂したりする鳩子の姿に共感できるのだ。
リアル……というよりも、世界やキャラクターに対する暖かい視線に満ち溢れているから、派手な事件の必要もない、ただそれだけなんだろうな、と思う。
そして、その雰囲気が心地良い、そんな作品。
「あかりをください神様
 そこはわたしの帰る場所 大切な人を迎える場所
 窓辺にともる地上の星